記者コラム 社会を揺るがした平成の2事件

 平成の埼玉で起きた二つの事件を振り返った連載「平成とは@埼玉」。取材した平成生まれの記者2人のコラムです。【連続幼女誘拐殺人】 「宮崎勤」という名前を聞けば、多くの人がどんな人物だったかをイメージできるのではないでしょうか。事件後の1990(平成2)年に生まれた私ですが、「昔小さな女の子を誘拐、殺害した犯人」という程度の認識を持っていました。 しかしなぜ事件から30年が経った今も、私を含めた多くの人の記憶に残っているのだろう。そんな疑問を持ちながら、取材を始めました。 東京都五日市町、現在のあきる野市にあった宮崎勤元死刑囚の実家の跡地を訪ねたのは、10月末。現在は駐車場に姿を変え、世間に衝撃を与えた「あの部屋」はありません。近所の方に事件当時の話を聞こうとすると、多くの人が「思い出したくない」と口を閉ざしました。地元の人々にとっても、事件は嫌な過去なのかもしれません。 当時、宮崎元死刑囚は趣味に浸り家に引きこもる「オタク」として非難されました。話を聞けた、当時を知る近所の男性は「消防団などに入れて大人と交流を持たせてあげれば、事件は起こさなかったかも」と言います。幼少期から人見知りで周囲と交流が少なかった宮崎元死刑囚に、手を差し伸べられなかったことを悔いている様子が、印象に残りました。 宮崎元死刑囚と約300通の手紙を交わし、公判も傍聴した月刊誌「創」編集長の篠田博之さんは「宮崎事件が平成の幕開けに起きたのは、象徴的だった」と振り返ります。 その理由の一つが、宮崎元死刑囚の犯行動機が最後まで不明だった、ということです。昭和の時代は、同じ誘拐事件でも身代金が動機の事件が多く「動機が単純だった」。しかし平成は、この連続幼女誘拐殺人事件を始め「単純には解明できない事件が増えた」と言います。バブル崩壊後、人々の価値観が変わると同時に社会が複雑化し、罪を犯す動機も複雑化した、と。 それが本当なら、例えば一昨年に起きた神奈川県相模原市の障害者施設殺傷事件なども、本当の動機は解明できないのかもしれない。そんな不安も感じました。 幼女が突然消え、惨殺される恐ろしい事件。社内の先輩に聞くと、「今田勇子」名の犯行声明など、その犯行態様は社会に強烈な印象を残していました。 同時に、昭和から平成へと時代が変わる中で事件を起こした「宮崎元死刑囚」も、その時代の社会のひずみが生みだしたのではないか。時代性や社会性を色濃く反映した事件だったからこそ、今も人々にとって忘れられない事件なのだと感じました。     ◇     ◇ 笠原真(28) 東京都出身。初任地の静岡総局を経て、2017年からさいたま総局。現在は埼玉県警を担当。 【桶川ストーカー事件】 11月上旬、埼玉県上尾市にある猪野さんの家を訪ねました。19年前、JR桶川駅前で詩織さんが殺された現場には、今でも花が供えられています。 父の憲一さん(68)、母の京子さん(68)は、嫌な顔一つせずに迎えてくれました。自宅1階には、詩織さんの遺骨が置かれ、成人式や高校時代、幼い頃の写真などが飾られています。命日の約1週間後ということもあってか、たくさんの花が飾られていました。 憲一さんと京子さんは毎晩、この部屋に布団を敷き、愛犬と一緒に寝ているといいます。お墓はつくってあるものの、「(詩織さんに)1人で寂しい思いをさせてしまう」。どちらかが亡くなった時、詩織さんと一緒に墓に入ると決めているのだそうです。 桶川ストーカー事件が起きた1999(平成11)年、私は小学1年生。当時の空気はわかりません。本や当時の記事などを読み、「どんな人なんだろう」と、詩織さんとご両親を想像してきました。実際にお会いしてみると、憲一さんはずっとサッカーをしているスポーツマンで、サッパリした性格という印象。京子さんは、ご自身は「普通の主婦」と言いますが、全国犯罪被害者の会(通称・あすの会)で精力的に活動してきたことなど、芯の強さを感じます。 事件はストーカー規制法成立に向けて社会を大きく動かしました。埼玉県警は書類の改ざんに関わった関係者を処分。一部のマスコミは、詩織さんについて「ブランドが好き」など、事実と異なる報道をしました。自宅には連日、報道陣が押し寄せ、日常が失われました。 京子さんは「あの時代は、被害者とか被害者遺族に権利がなかった」と振り返ります。そんな中、「あすの会」で署名などの活動に参加。「ささやかなことしかできないけど、一生懸命やってきた」。この地道な活動が、2004(平成16)年の犯罪被害者等基本法の成立につながりました。 今でも、自宅を見にくるやじ馬のような人がいるといいますが、「親は堂々と生活して胸を張って、世間のいろんな声を受け止めていく」。憲一さんも「一番痛くてつらくて悲しい思いをしたのは詩織。それと比べたら我々は親なんだから、全然大したことない。いろんなことを、いろんな人の前で語っていかなくちゃいけない」と話していました。 娘の死、メディアスクラム、警察の怠慢、世間の目。ご両親には想像を絶する苦悩があったと思います。ですが2人は、前を向いていました。「心の持ち方は詩織に教えられているのかな。詩織に育てられている」。2人の言葉に、力強さを感じました。     ◇     ◇ 高絢実(26) 東京都出身。通信社勤務を経て、今春からさいたま総局で埼玉県警や高校野球を担当。