ふるさと息づく 日本画家の足跡

◆幼少期過ごした用瀬・佐治に名作 京都の町屋などを描いた静謐(せいひつ)な作品で知られる日本画家・前田直衞(なおえ)(1915~2008)が子ども時代を過ごした旧用瀬町と旧佐治村(現在は鳥取市)では、様々な施設で前田さんの作品に間近で接することができる。地元の小中学校では毎年、前田さんと交流のあった芸術家らによる授業もある。今月23日で亡くなって10年。山あいのふるさとに、画家の豊かな遺産が息づいている。(斉藤智子)◆前田直衞 没後10年しのぶ 前田さんは用瀬町鷹狩に生まれ、小学6年で大阪に移り住んだ。横山大観の水墨画の大作「生々流転」を新聞で目にして感銘し、絵描きになる決意をしたという。京都画壇を代表する日本画家のひとり橋本関雪らに師事し、出征後は絵筆を置いた時期もあったが、日本美術院展覧会(院展)に入選を重ねるなど活躍した。 用瀬、佐治に度々帰郷し、三徳山三仏寺の投入堂や築地松を備えた出雲の民家、隠岐など山陰を描いた数々の作品も残した。用瀬町総合支所の旧町長室はギャラリーとなっており、小下図(こしたず)(小さい下絵)を含む約10点を展示。用瀬の旧家・徳永家を描いた「雪の因幡路」(縦89センチ、横1・1メートル)は「格子の数もそっくりそのまま描かれている。家の中からぽうっと光がもれて温かい感じ」と前田直衞顕彰会の森田純一会長(82)=用瀬町在住。絶筆となった「隠岐の舟屋」(縦約1・7メートル、横約2・2メートル)も見ることができる。 町内の流しびなの館には、流しびなを流す着物姿の少女たちを描いた「流しびな」(縦約1・4メートル、横約2メートル)が、佐治町の和紙工房かみんぐさじには「紙漉(す)き」(縦91センチ、横約1・2メートル)が飾られている。用瀬町総合支所で作品のある場所を巡れるマップを配っている。 用瀬で展示されている作品の一部と、市立中央図書館(富安2丁目)や個人所蔵の掛け軸、スケッチなど計16点(うち2点は複製画)を集めた没後10年展が8~17日に図書館の市民ギャラリーで開かれる。9日午後2時からは元県立博物館主任学芸員の林野雅人さんの講演がある。いずれも無料。図書館の閲覧室には常時、「本屋」(縦約1・6メートル、横約2・2メートル)が飾られている。◆水墨画「筆使い難しかった」 千代南中で芸術交流 鳥取市立千代南中学校(用瀬町別府)で3日、前田直衞顕彰会による芸術交流学習会があり、1年生36人が水墨画の作品を制作した。 顕彰会は2013年度から佐治小学校、用瀬小学校、千代南中学校で「絵画交流事業」に取り組んでいる。生前に前田さんと交流があった画家や染織家らが顕彰会顧問として講師を務め、今年度は10月に用瀬小で色とりどりの羊毛を使ったフェルト作品づくり、11月は佐治小で染めと貼り絵を組み合わせた作品づくりをした。 この日の講師は日本画家高橋俊子さんら3人。生徒たちは筆やはけで濃淡のグラデーションをつけて竹林を描き、掛け軸に仕立てた。小林稟乃(りの)さんは「水墨画は初めての経験で、先生は簡単そうに筆を操っているのに、やってみると、墨と水でちょうどいい濃さにすることや、ぎゅっと押して力を入れる筆の使い方が難しかった」、森尾翼君は「墨の薄いところ濃いところを工夫した」と話した。